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果てるまで睦み合い、穏やかな日差しの中、浅い眠りに落ちた。
明るい風と光が、瞼の上にゆらめいている。
腕の中には、安心し切ったような寝息。
とろりとした微睡みに揺蕩っていると、ふいに久遠が身を起こした。
「――――あ」
何かに驚いたような声をあげ、ぱっと寝台から飛び降りる。ぼんやりとする視界の中に、寝室から飛び出していく久遠の背中が見えた。
一瞬のうちに強い眠気から覚醒した。既視感のある光景に、全身から血の気が引く。
「待て、久遠! ひとりで行くな――!」
そう叫びながら、大部屋に飛び込んだ。
久遠は、花が咲きはじめた蓮池のほとりに立ち、明るい空を見上げていた。
「久遠、一体どうしたんだ! 驚かせるんじゃない!」
叫びながら駆け寄ると、久遠はにいっと口の端を引き、天を指差した。
顔を上げてみて驚いた。
いつの間にひと雨降ったのだろう。蒼天に、巨大な虹が架かっている。
「一緒に虹を見るのは初めてだな!」
心から嬉しそうに、久遠は言った。
永久に続くかと思われた灰色の雨は上がった。永い雨の後には、美しい幸福の虹が架かる。
その幸福を確かめるように、そっと手を握った。
「陽炎。俺に約束してくれる?」
「ああ、何でも」
「何度生まれ変わっても俺は、必ずあんたに会いに行くと思う。だから――」
ふたつの虹が、自分を見上げる。その瞬間、遥か遠い未来と、いくつもの過去が、目の前で交差したような気がした。
「空に虹が架かるのを見たら、また俺を思い出して」
久遠の果てに虹を待つ〈完〉
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