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1,UFOは実在するのか
石垣守先生は、自分の受け持つ5年2組の教室に入ろうとして、開けたままの扉の中から聞こえてくる声に足を止めた。
放課後の小学校。
校庭からは、ボール遊びに興じる生徒たちの声がのびやかに響いてくるが、教室は波が引いた浜辺のように閑散としていた。
そんな静かな教室から聞こえてくる声はゴシック体の文字のようにはっきりしていて、石垣先生はその声だけで話しているのが誰か判別できた。
影山一志(ひとし)と、村越透。
5年2組の30名いる生徒のうちの、2人の男子。
「だから、UFOなんてほとんど見間違いだよ。気球や鳥、ドローンに飛行機……、UFOが見たいと思っているから、UFOに見えるんだろ。万一UFOが本当にいるとしたって、そんなに簡単に見られるわけないよ」
「それは、UFOを見たことのない奴の負け惜しみだね。僕はこの目でちゃんと見たんだ。UFOっていうのは特別な物体だから、実際に目撃すると間違いなくUFOだってわかるんだ」
2人は言い争いというほどではないが、意見を異にして対立している。
UFOの存在を否定しているのが影山一志で、UFOを見たと主張しているのが村越透だ。
石垣先生は、この2人が普段仲が良いことを知っていた。その友情が壊れない範囲での、しかし互いに一歩も譲らないという意地がうかがえる論争のようだった。
「大昔から宇宙人やUFOがいるっていう説はあるけど、ナスカの地上絵とか。それは科学の発達していない時代の無知な人間が、理解を超えたものを神の仕業にするのと同じで、迷信みたいなものだよ。迷信だからはっきりとした証拠がなくて、胡散臭い目撃談ばかり出回るんだよ」
「いや違うね。UFO先進国ともいえるアメリカじゃ、ついこの間ペンタゴンがUFOの情報を提供する公式サイトをオープンしたんだ」
「ペンタゴンって何だっけ」
「アメリカ国防総省のことだよ。UFOの写真や動画、目撃情報なんかが公開されるんだ。すごいよね。アメリカじゃ、もう国がUFOの存在を認めてるっていうことだよ」
「正式に認めてるの?」
「え、まだそこまではいってないらしいけど。一歩手前ぐらいじゃない? 何しろアメリカ海軍の元パイロットやアポロ宇宙船の飛行士なんかがUFOを見たと証言してるんだ」
「そういう人たちだって、見間違うことあるよね」
「まあそうだけど、重大なことだから見間違いとか軽々しいことじゃないと思うよ」
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