3,コスモスと宇宙

1/2
前へ
/6ページ
次へ

3,コスモスと宇宙

小学校の校門の前に立つ2人の男子生徒の前に、青い乗用車が止まった。 中から出てきたのは石垣先生で、2人の男子生徒は影山一志と村越透だった。 9月最後の日曜。午後4時。 石垣先生は、2人をドライブに連れて行く約束をした。 高くなった青空にイワシ雲が浮かぶ、秋の歌を歌いたくなる晴天の日だった。 2人は先生のドライブの誘いに、半ば喜び半ば困惑した。 「どういう風の吹き回しなんだろう」 「変なところに連れていかれたりしないよね」 先生の意図をはかりかねて、不安が先立つ2人だった。 親に話してあるので、その点は安心だと思っていた。先生は、帰りがちょっと遅くなりますが、責任を持って送り届けますと2人の親に請け合っていた。 「さあ、乗った乗った」 石垣先生は快活な調子で2人を後部座席に座らせ、「じゃあ、出発だ」と言って車を発進させた。 「どこに行くんですか」 一志がおずおずと訊いた。 「だからドライブだよ。と言っても心配だろうから教えるけど、コスモス畑だよ」 「え…」 2人は煙に巻かれたような心地がした。先生が教室と職員室の机にコスモスを飾っていることに、2人は気付いていた。 単に季節の花という以上の愛着が感じられたが、2人にとっては特に思い入れがあるわけではない。 「先生、コスモスが好きなんですか」 「ああ、好きだよ」 石垣先生は、キャッチボールの球を受けるように当たり前に答えた。 大通り沿いにあるファーストフード店の所で先生は車を停め、「ちょっと休憩しようか」と言った。 一志と透は先生の提案に同意し、有名なチェーン店の初めて見る店舗に入った。 通りに面した窓際の4人掛けのテーブルに座り、先生はコーヒーを、一志と透はシェイクを注文した。 時間は、4時45分。 太陽は夕方のモードに変わり、地面から秋の夜の涼しさが立ち昇ってきた。 「先生がコスモスを好きな理由はね」 石垣先生は、ここが大事というように間をとった。 「見た目のきれいさ、華やかさもあるけれど、コスモスが宇宙を意味するからだよ。知ってるね?」 2人は何となく聞いたことがあったが、由来などは知らなかった。 「コスモスはギリシア語で秩序や美しいっていう意味で、星が秩序立って並んできれいに瞬く宇宙をコスモスと名付けた。一方、花のコスモスは、花びらが整然と並んでいるからだ」 「それじゃ、宇宙とはあんまり関係ないんですね」 透が少しがっかりして言った。 「そうかな」 石垣先生は、謎めいた微笑を浮かべてまた2人を煙に巻いた。 「植物って、人類より起源が古いんだ。旧約聖書の創世記にも、神が天地創造の際3日目に植物を、6日目に人間を作ったと記されている。 植物が滅びれば人間も生存できないが、人間が滅びても植物は生き残る。 また、植物は毒にも薬にもなるし、森林浴すればフィトンチッドが人間を癒すね。 つまり植物は人間が作ったものではなく、人間より先に存在していた。その能力は計り知れない。 例えば山。山にはよく神が棲んでいるといわれるが、山とは木の集合体でもある。木々が集まって、何か神がかったものが生まれるのかもしれない。 花もそうだ。多くの花が咲く花畑は壮観だが、そこに何らかのパワーが生じていないだろうか」 一志と透は先生の話に耳を傾けていたが、先生が何を言おうとしているのかつかめなかった。 ただ、最後に花畑が出てきたのが、これから行くコスモス畑と関連があるような気がした。 時間は5時を大きく回っていた。 この時期、5時半頃には太陽が沈む。石垣先生は、それを待って時間をつぶしているのだろうか。 一志と透は期待と不安が交錯していたが、一人ではなく2人一緒だということに、心強さを感じていた。 「さて、そろそろ行くか。あ、影山君はUFOを信じていないんだね」 急に問われてどぎまぎしたが、一志は「はい」ときっぱり答えた。 「で、村越君はUFOをその目で見た、と。その問題に決着がつくかもしれないね」 一志と透は顔を見合わせ、互いの顔に当惑を見てとった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加