3,コスモスと宇宙

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車を運転しながら石垣先生は、「if a body meet a body」と鼻歌を口ずさんだ。 「それ、『故郷の空』ですか」と透が尋ねた。 「日本ではそういう唱歌になっているね。原曲はスコットランドの民謡で、それにスコットランドの詩人が『Comin'Through the Rye』というちょっときわどい詞をつけたんだ。『ライ麦畑で出会ったら』って、『故郷の空』と全然違う内容なんだよ」 それから先生の鼻歌も途切れ、窓の外に夕闇がせり上がってきて、一志と透は少しうとうとした。 「着いたよ!」 という先生の声で2人は目を覚まし、車の外の薄闇の中に広がる景色が夢の延長のように思えた。 そこは、目的地のコスモス畑だった。 夕闇にコスモスの色彩は沈んでいくことなく、ピンク、オレンジ、白、黄色、それぞれの色を際立たせていた。こんなにたくさんのコスモス……。 一志は、自分たちたった3人の人間がコスモスに呑み込まれてしまうのではと、身震いした。 「スゲー!」 と透は絶叫した。その叫びは、コスモスたちに養分となって吸い込まれていった。 「教室のコスモスは、ここでとったんだよ」 先生が言うまでもなく、それは明白だった。 「先生、一人で来て怖くない?」 と一志が訊いた。 「怖くないよ。ここに来ると、人間を超えたものの存在を感じて身が引き締まるんだ。 昔君たちぐらいの生徒が、アジサイの花が雨乞いをしていると言った。それはもしかすると例えではなく、事実かもしれない。そしてコスモスは、宇宙からの物体を招いているんだ」 人の顔が薄闇に霞んでいく中、石垣先生の瞳がキラッと光ったのを、一志と透は確かに見た。 「たとえば火球。以前落下した破片が今もここにある。しかし、宇宙からの物体といえば、君たちも勘図いているように、だね」 石垣先生の言葉に魔法をかけられたように、一志と透は自分たちが広大な宇宙の地球という星の表面に立っている感覚にとらわれた。 その時、黒く塗りつぶされた山の陰から、何か光るものが現れた。 それは光を明滅させながら、地上の法則に反する奇妙な動きをしつつ、コスモス畑目指して飛行した。 そしてコスモス畑の頭上に来ると、見たことのない光でコスモスを照らし出した。 コスモスはまるでその物体がなじみのものであるかのように、その色彩を美の極致にまで高めて歓声をあげた。 「なんてきれい」 一志と透は一瞬すべてを忘れて、ただその飛行物体が照らしたコスモスの美しさに見入った。 (了)
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