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 流生が口を開く前に「いや、違う」と自分で否定する。 「悪いのは俺なんだ。お前じゃない。でも、お前が教えてくれなくて。だけど、教えてくれたところでその時にはもう、手遅れで」  支離滅裂なことを口走っていると分かっていながら、止まらない。 「今更、俺にどうしろって言うんだよ。こんなことしたって藍は帰ってこないし、だけど最初に藍が死んだ理由を知りたいと思ったのは俺なんだ。どうして、どうしたら」  涙が出てきたので、手の甲で涙を拭った。玄関の扉が開く音がした。 「誠二、流生くん。どうしたの!」  由紀がダイニングの扉を開いたところで一時停止した。誠二の顔をしげしげと見ている。 「誠二が泣いたの、小学校以来?」 「由紀さん、すいません」 「流生くん、どうして」 「帰ってくれ」  誠二は俯き、拳をぐっと握った。その拳をダイニングテーブルに叩きつける。どん、と大きな音がした。 「誠二!」 「いいんです。由紀さん。オレが悪いんす」  流生は立ち上がり「お邪魔しました」と歩き出した。 「どうしたの流生くん。うちの息子が」 「いや本当に、藤原さんは悪くないんで」  誠二は目を閉じて、呼吸を整えていた。心臓はうるさく鳴っているし、息も荒い。こめかみがぴくぴくと痙攣している。  自分は怒っているのだ、ということは分かる。何にと聞かれても分からない。とにかく怒っているのだ。人に、自分に、全てに。 「流生くん帰っちゃったけど、良かったの?」  由紀が戻って来た。そのきんきんと鳴る声が耳障りに思えた。 「知らない」  誠二は由紀の顔を見ずに、ダイニングを出た。階段を駆け上り、自分の部屋に戻った。ベッドに飛び込み、うつぶせで何度もベッドを殴る。そうしている間にも、目からは後から後から涙が流れる。  自分がどうして泣いているのか、どうすれば涙が止まるのか、分からなかった。
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