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「でも、感じ悪かったわけじゃなくて、話しかけると普通に返してくれんのね。だからああ一人が好きなのかなーって思ってた」
「でも、それで接客大丈夫だったの?」
流生は思いついた疑問を口にした。摩耶は大きく目を見開いて「それがさ」と興奮した口調で言った。
「沙智さんて、それが売りだったんだよね。相槌が上手で、相手は気持ちよくぺらぺら喋っちゃうっていうか。さりげないボディタッチも上手くて。沙智さんは静かなんだけど、テーブルは賑わってる、みたいな」
若葉が「すごいね」と相槌を打つ。先の「友達」発言で腹が立っていたので、流生は若葉の言葉を制するように「でも」と口を開く。
「そういうのって、どうなの。他の女の子はさ、嫉妬とかしないの? あんまり分かりやすい接客じゃないみたいだけど」
「そうなんだよねえ」
摩耶はふう、と溜息を吐いた。
「沙智さんて女の子達には嫌われてた。客にだけ媚びてりゃいいと思ってるんだよね、うちらのこと馬鹿にしてるから口も聞きたくないんでしょって──」
摩耶はそこではっとした顔になり「ごめんね」と誠二に頭を下げた。
「彼女の悪口とか聞きたくないよね」
誠二は「ああ、いや」と首を横に振った。
「藍が他の誰から悪く言われていても、俺自身の評価は変わらないから」
若葉と摩耶が顔を見合わせた。
「おおー」「格好良いー」
二人は揃って拍手をした。
「言われてみたいよこんなこと」
「ね。本当に」
若葉は流生と目を合わせようとしない。当てつけかよ、と思った。彼氏でもない流生がそんなことは言えないと分かっている癖に。
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