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彼との間では、結婚の話が進んでいました。
結婚したら、彼の実家で働かせてもらうことになっていました。
最初は実家の近くに二人で住んで、彼が実家を継ぐタイミングで二世帯住宅に建て直し、両親と一緒に暮らそうと言われていました。
子供の話も出ていました。
だけどそれは全部、現実にはなりません。
別れた方がいいかもな、と思いました。
彼は私ではない他の誰かともう一度出会い直して、その人と幸せになって、私は一人で人生を終えれば迷惑はかかりません。
彼が悲しむ姿を想像すると胸が痛くなりました。
でも、彼が私以外の人と一緒に笑いあっている姿を想像したら、もっと苦しくなりました。
私以外の誰のものにもなって欲しくない。
その手で誰の頭も撫でないで欲しい。
誰のことも抱き締めないで欲しい。
誰のことも愛さないで欲しい。
一生、ずっと、私だけの彼でいて欲しい。
もちろん口には出来ませんでした。
彼にはずっと嘘を吐いてきました。
彼はまだ、私が昼の仕事をしていると思っているし、社長と寝ていた事実も知りません。
実家との関係も、過去の男性関係も、ほとんど伝えていませんでした。
この日から、もう一つ嘘を吐くことになりました。
私と彼の未来が、何の障害もなく訪れるという嘘。
それは嘘だけど、私の生きる希望でもありました。
彼と明るい話をしている間は、その日が本当に訪れるような気がしていました。
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