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 巡回店舗は竹田の気分で決められる。事前予告はないので、パートの希望休が重なって人が足りない日に当たることもある。むしろ何故かそういう日にばかり姿を現す。まさしく今日の高坂店もそうだ。朝の作業人数が足りないので社員がいつもより早く出勤し、どうにか開店準備を終えたところで竹田が現れた。  本来部長の店舗巡回は、売り場のチェックと社員とのコミュニケーションを主とする業務である。他部門の部長や同じ青果部の課長が巡回してきた場合は、作業場での会話で済むこともあるが、竹田はそうはいかない。喫煙所に誘われてから竹田が腰を上げるまで、短く見積もって一時間は拘束される。労働時間八時間のうち一時間拘束されては作業の段取りも大幅に狂う。売り場だって良い状態には維持出来ない。  けれど逆らえない。竹田には人事権がある。更に竹田は、仕事に大いに私情を挟むタイプだ。配属先を見れば、竹田の評価が分かる。  明らかに競合店に打ち負けている店舗や、募集をかけてもパートが集まらず、社員が慢性的に休日出勤を余儀なくされている店舗にいる社員には、会議で会っても竹田は自分から声をかけない。竹田の評価を挽回したくても、竹田は巡回に来ない。元々が厳しい業績の店舗なので、数字は出ない。そうなってから後悔しても、もう遅いのだという。  流生は今まで一緒に仕事をしてきたチーフ達から、「くれぐれも竹田の機嫌を損ねるな」と言いつけられてきたし、社歴も四年目になると、その言葉の重みを嫌でも感じるようになってきた。どんなに寒くても、どんなにその後の予定が狂わされたとしても、それは一時のこと。ここで竹田の下らないお喋りに付き合うことこそが、今の流生にとって一番優先順位の高い仕事なのである。
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