22人が本棚に入れています
本棚に追加
今日も長くなりそうだ、と思考スイッチをオフにしようとした時、「そういえば」と竹田が煙草の煙を吐き出した。
「藤原の彼女、死んじゃったらしいんだよ」
「え。そうなんですか」
初耳だった。藤原といえば、イチダイ青果部では藤原誠二を指す。
現在、高坂店青果部は日下部、流生、中野が配属されているけれど、昨年度新入社員である中野が研修中の内は誠二も高坂店配属だった。即ち、ほんの半年前まで、流生と誠二は一緒に仕事をしていたのだ。
「藤原の彼女ってことはまだ若いでしょ。事故とかですか?」
日下部が少し腰を浮かせて、灰皿に煙草を落とした。
「分からん。とにかく佐々木のところに『婚約者が亡くなったから一か月休ませて欲しい』と連絡があったんだと」
佐々木は誠二の異動先、大平店のチーフだ。
「一か月も休んでどうするんですかね」
「知らん。佐々木も聞けなかったんだとよ。今は有給消化の理由を聞くだけでパワハラだなんだの時代だからな。はい分かりましたと受け入れるしかない」
竹田が不快そうに鼻を鳴らした。竹田は「パワハラ」と「セクハラ」という単語を忌み嫌っており、口にするだけであからさまな拒否反応を示す。
最初のコメントを投稿しよう!