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「永山桂一郎さんにお会いしたいんですけど」  誠二が言い終える前に「ああー」と修が大袈裟に嘆いて見せる。 「残念ながら永山は出張に出ておりまして。公務が忙しいものですから。私がきちんとお話お伺いしますので、どうぞご安心ください」  出張、ということは不在らしい。先程の女性が湯気の出たお茶を誠二の前に差し出した。「どうも」と言って受け取る。女性は会釈をして修の前にも湯呑を置くと、またキッチンへ消えた。 「どういったご用件で?」  笑顔は崩れていないが、口調は有無を言わさない強いものであった。 「永山藍さんという女性、ご存知ですか?」  修は即座に「存じません」と否定する。 「桂一郎氏の娘さんではありませんか」 「いいえ。私に妹は一人しかおりません。名前も違います。勘違いされてはいませんか」 「でも、確かに住所も名前も」 「勘違いです」  誠二の言葉を、修が笑顔で遮った。眼鏡のフレームをくい、と持ち上げ「もしかして」と言った。 「ご相談ではないのですか? でしたらお引き取り願います。うちも永山もこう見えて忙しいもので」 「大事な用です。人が一人亡くなってるんです」 「亡くなっているというのは」 「藍です。永山藍は先週亡くなりました」
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