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修は一瞬だけ動きを止め、「ですから」と眼鏡のフレームを持ち上げた。
「私共には関係のない方です。恐らくなにか勘違いをしてらっしゃると思いますよ」
「勘違いかどうかを確認したいので、桂一郎氏に会わせてください」
「先程も申しましたが、公務で出ております。本日は戻りません」
「会う約束を取り付けて貰えませんか」
「無理です。永山は多忙です。都合がつきません」
「なにか、知られては困る都合の悪い事情があるんですか?」
「はい?」
「桂一郎氏の自宅でも、同じ様な扱いを受けました。そんなに藍に関することは触れられたくないんですか?」
誠二は目の前の男を信じていなかった。こんなにきっぱりと言い切るのはきっと、藍の存在を知っていて、隠そうとしているからに違いないと思った。
「ですから」
修は下を向き、ふ、と笑った。
「そんな方は知りませんし、永山家とは関係ありません。お話出来ることはありませんので、どうぞお引き取りを」
修の口元は笑っているが、目は笑っていない。誠二は「そうですか」と立ち上がった。
「また来ます」
「何度来ても一緒ですよ」
「いえ。また来ます」
誠二は立ち上がり、部屋を後にした。修も先程の女性も、見送りに立つことはなかった。
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