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「はい」  長いコールの末に出た誠二の声は、明らかに眠そうだった。 「あ。藤原さん。大丈夫っすか?」 「え? あ。あああああ! すまない!」  誠二は流生が説明をする前に、事態を理解したらしかった。 「ああ、大丈夫っす。慌てて事故っても困るんで、ちゃんと目を覚ましてから来てください。先行ってるんで」  何度も謝る誠二を宥め、通話を終わらせた。タクシーに乗り、「H駅まで」と二駅先の駅名を告げる。深夜の割増料金ではあるものの、終電の時間を過ぎているので仕方ない。流生は一応財布の中身を確認した。タクシー代は間に合いそうだが、念のためにコンビニで金を下ろそう、と決意する。  H駅には若葉と、その友人である摩耶(まや)が待っているはずだった。二人は中学生以来の地元の友人であるそうで、何度か名前を聞いていた。ブルームーンで働いているというのも、以前若葉から聞いたのだ。  スマートフォンが震える。若葉からのメッセージだった。『寒いからお店入ってるね』。店名を知らせるメッセージが続けざまに届く。流生は『了解』と書かれた大きな絵文字スタンプで返信した。  ブルームーンはH駅から徒歩十分程の場所にある。指定された時間と場所は、摩耶の仕事終わり、ブルームーンの閉店時間に合わせてのものだ。  コンビニで気持ち多めに金を下ろし、若葉と摩耶に合流した。初対面ではあるけれど、摩耶のことは写真で見て知っていた。明るい金髪に派手な化粧。黒髪ナチュラルメイクの若葉とは正反対に見えるのに、何故か馬が合うらしい。流生が店に入った時には、二人ともけらけらと笑っていた。
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