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誠二が咳ばらいをして「それじゃあ早速」と切り出す。 「永山藍が一緒の店で働いていませんでしたか」 摩耶は「敬語じゃなくていいのに」と笑う。 「本名だと分かんない。写真とかない?」 「ある」  誠二はポケットからスマートフォンを取り出し、写真を表示させてテーブルの真ん中に置いた。  流生と若葉も身を乗り出して覗き込む。なんだか、薄い人だなと思った。痩せていて、肌の色も白く、唇も薄い。表情も曖昧だ。口の端は上がっているので、笑っているのかもしれない。でも、目はただ細めているだけで、きちんと笑っているようには見えない。儚そうな人だ、とも思った。が、口には出さない。 「あ。サチさんだ」 「サチ?」 「そう。サチさん。ええとね。さんずいに少ないの沙と知る日曜の智って書くんだって」  沙智。流生も頭の中で変換した。 「源氏名が沙智だったってことっすね」 「うちの店、源氏名平仮名の子多いのに、沙智さんは漢字なの。賢い感じ、するよねえ」  烏龍茶が猫型の機械によって運ばれてくる。流生は会話を遮らないように誠二の前にグラスを置いた。 「藤原さんの彼女だったの?」  誠二は頷き、「じゃあ、やっぱり働いていたのか」と独り言のように呟く。 「働いてたよ。摩耶より後に入ってきたの。半年前くらい、かなあ」 「いつまで働いてたか分かる?」 「二か月前くらいまで? あんまり長くはいなかったよ」 「そうなんだ。二か月前か」 「うん。ちょっとしかいなかった」 「なんで辞めちゃったか、分かる?」 「摩耶、正直あんまり仲良くなかったんだよね。ていうか、沙智さんて仲良い子、いないかも。自分から喋るタイプでもなかったから」  流生はテーブルの上に置かれたままの誠二のスマートフォンを見る。流石にもう画面は暗転していて、藍の写真は映っていない。誠二はその視線に気付いてスマートフォンを回収してポケットにしまった。
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