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「すごかったね」  佐藤が流生の左腕に頭を乗せ、甘えるような視線でこちらを見た。汗ですっかり化粧の崩れた佐藤の顔は、能面のように見えた。眉毛は短くなり、アイラインも消えている。 「ねえ」  佐藤は流生の脇腹を人差し指でつついた。 「やめろよー」  尖り過ぎず、しかし拒絶の色をしっかり孕んだ声で佐藤を咎める。性欲が満たされてしまえば、先程まで夢中になっていた佐藤の柔らかい体も、只の肉にしか見えない。早く洋服を着てくれないかな、と勝手なことを思う。 「彼女とか、いないの?」  若葉の顔が浮かんだけれど、すぐに「いない」と返した。若葉は友達であって彼女ではない。セックスはするけれど、彼女ではない。 「なら、たまにこうやって会おうよ」  佐藤は顔を上げ、仰向けになってベッドに頬杖をついて流生を見た。 「いいけど、でもオレ、佐藤さんとは付き合わないよ」  佐藤は「いいよそれでも」と微笑んだ。 「会ってくれさえすれば」  佐藤は真っ赤な舌で唇を舐めた。白い肌との対比でひどく生々しく見える。 「ねえ、どう?」 「まあ、いいけど」  流生の返事を聞き、佐藤は満足げに頷いた。身体を起こし、「シャワー浴びてくる」とベッドから姿を消した。
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