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 昨夜用意しておいた段ボールとガムテープを手に自宅を出ると、開店準備をしていた由紀と目が合った。 「誠二、今日も出かけるの」 「ああ、うん」 「そう」  由紀は言葉を探しているようだった。  先日、都和が誠二の部屋で喚き散らして以来、誠二は家族と会話するのを避けていた。なるべく早く家を出て、なるべく遅くに帰る。食事も外で済ませていた。  今日は土曜日で、明日は市場が休みだ。そういう日はいつも、由紀は哲央と共に市場に行く。買い付けの荷物が多いからだ。今日もそうだと思って油断していた。哲央が車を出したことを確認して外に出たのに、結局無駄だったようだ。 「毎朝、どこに行ってるの?」 「藍の家だけど」 「何しに?」 「掃除。片付けないといけないんだよ。今月中に」 「お母さんも行こうか?」 「いいよ。俺一人で出来る」 「だって、こんなに朝早く。毎日行ってるんでしょう? そんなに大変ならお母さんも」 「いいって」  声が少し強くなってしまった。由紀はぐ、と一瞬口を噤む。 「都和のこと、避けてるの?」 「は? なんで姉貴が」 「この間あんた達喧嘩したんでしょう?」 「してないよ。姉貴が一方的に喚き散らして、一方的に出てっただけだ」 「だけど」 「俺、行くから。別に気にしなくていいよ」  誠二は由紀の横を通り過ぎ、駐車場へ向かった。斜めがけの鞄が弾んで誠二の腰を叩く。 「誠二」  由紀が呼び留めたので、振り返らずに立ち止まった。 「お母さんはあんたの味方だからね」  しばらく返す言葉を探して、結局「ありがとう」とだけ言って歩き出した。由紀はもう何も言ってこなかった。
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