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「藤原さん。大変です」 「ん?」 「フライドポテトが切れました」 「なんだそれは」  誠二は呆れた声を出した。運転中であるから、顔が流生の方に向くことはない。 「どっかサービスエリアとか、そういうとこ寄ってください。オレ、腹が減ると何も出来ないマンなんです」 「そうは言ってもなあ」  誠二がちらりと車載のナビを見た。流生もつられてそちらを見る。目的地には藍の実家の住所が設定されている。 「あと一時間くらいで着くから」 「高速降りてからでもいいっす。お願いします」 「分かった分かった」  投げやりに返事をしているようで、誠二の口元は笑っている。その顔を見て、ああようやく笑ってくれたと流生は密かに胸を撫でおろした。  流生は誠二が心配だった。助手を申し出たはいいものの、藍のことを追い、事実を知る度に誠二は少しずつ消耗している気がする。一緒に仕事をしていた時のような覇気や迫力が見当たらない。返事も鈍いし、表情もあまり変わらない。元々無駄話を好む性質ではないが、こうして流生が話を振らないと、ずっと無言だ。  真実と向き合うことは酷なのではないかと思う。しかし、この中途半端な状態のまま流生が「諦めましょう」と言って聞く誠二ではない。途中で投げ出すことを非難するだろうし、「なら自分一人で」と流生を排除して突き進む可能性もある。そうなった時、良い結果に転ぶ未来が見えない。流生に出来ることは微力ながら傍で誠二を支え、出来る限り穏便な形でこの件を落着させることだ。
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