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「腹が膨れたら藤原さんの助手、頑張るっす」
「あ、ああ」
それ以上会話は続かず、流生は窓の外を見た。景色が勢いよく流れていく。
高速道路を降りてから、通り沿いのファストフード店のドライブスルーで早めの昼食を入手し、誠二は運転しながら、流生は助手席で景色を見ながら腹を満たした。そうこうしているうちに到着したのは、藍の実家のすぐ傍のスーパーだ。
店舗面積より広い駐車場に車を停め、車を降りた。
「くー」
流生は大きく伸びをした。ずっと座っていたので尻が痛い。日差しの下で見ると、着てきた黒いスーツにも皺が出来ていることが分かる。
「オレ、スーツ着ると賢そうに見えるって評判なんすけど、どうっすか?」
「その質問に賢さを感じないな」
「なるほど。そういう見方もあるっすね」
「というか、皺が寄ってるぞ。大丈夫か」
「大丈夫っす。相手は多分お年寄りなんで」
誠二が首を傾げる。
「逆にこんくらい隙がある方がいい感じに受け止められるかもしれません。オレって若いし。完璧すぎると何かの詐欺だと思うかも」
「いや逆に抜けすぎてても」
「藤原さん、意外と心配性っすね」
誠二はふう、と息を吐いた。
「まあ、お前が大丈夫だって言うなら」
「藍さんて、好きなものとかありました?」
ふと思いついて聞いてみると、誠二は「そうだなあ」と少し考えた。
「雨が好きって言ってたけど」
「え。ロマンチック」
「あとは蛙のぬいぐるみ。藍の部屋にも大きなのがある」
「蛙かあ」
少し考えてみたが、今回の作戦には使えそうにない。
「まあそれは狙い過ぎかもしれないっすね」
「狙い過ぎ?」
「ここはやっぱりお花だけでいきましょう」
二人で屋外に設置されたスーパーのトイレを借りた後、店内に入る。入り口に並ぶ花束の中から一束九百八十円のものを選び、レジへ向かう。会計は誠二がした。値段の部分を切って貰い、店を出た。
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