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 永山邸の隣の家は、洋風の二階建てだった。ところどころに赤茶のレンガをあしらった白壁の外壁は、黒っぽくくすんでいる。庭に生えている芝生を見て、昔はこういう家が流行りだったのかな、と思う。きっと流生が生まれる前から建っているのだろう。表札には荻原(はぎわら)と書かれている。  誠二と顔を見合わせ、頷きあった。誠二は流生に背を向けて歩き出す。流生は一歩前に出て萩原邸のインターフォンを押した。 すぐに「はい」と返事がある。高齢の女性の声だった。 「すいません。あの、お隣の永山さんの家に用があったんですけど、不在みたいで……。どうしても渡したいものがあるので預かっていただけませんか?」  がちゃ、と扉が開いた。 「あら。いらっしゃらなかった? お買い物にでも出てるのかしらねえ」  七十代くらいの女性がサンダル履きで出てきた。白髪交じりの髪を、それでもきちんとセットして、ふんわりと丸くまとめている。 「いいですよ。渡しておきますから」  あまりの無防備さに、逆に流生が警戒してしまう。このご時世に、見知らぬ人物が訪ねてきて、当前のように玄関を開けてしまうなんて。危ないですよと注意したい気持ちを堪え、「実は」と顔を俯かせる。 「永山さんのお嬢さんが亡くなったと聞いてお線香をあげに来たんです。でも不在みたいなので、せめてお花だけでもと思って」 「お嬢さんって、佑香(ゆか)ちゃん?」 「あ、いえ。藍さんの方です」  聞いた途端、荻原婦人は「あらあ」となんとも言えない表情を浮かべた。困っているようでも、面白がっているようでもある。
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