眠れない

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眠れない

 眠れない。  肌触りの良いふかふかのお布団。適度にドライでほんの少しだけ涼しい、温度と湿度が絶妙に調節された部屋には、ラベンダーの香りがほのかに漂っている。家の中も窓の向こうも静かで、これ以上なく完璧な環境だ。  それなのに。  静けさが鼓膜を揺らし続ける。カーテンの隙間から覗く光が神経をザラリと撫でる。天井の模様が何かを訴えてくる。 「ああもう……」  思わず頭を抱えた。  生まれてこの方、寝不足とは無縁の生活を送っていたというのに、最近いつもこうだ。ベッドに入っても全く眠くならない。うとうとしかけたと思ったらもう空が明るくなり始めている。お陰で昼間は寝不足で、授業中に居眠りを指摘されてしまった。中年の英語教師に呆れ顔で「アー、ユー、スリーピー?」と一語ずつゆっくり区切って発音されたときの屈辱は忘れられない。  これ以上羊の数を数えてもいらだちが増すばかりだ。いっそのこと完全に起きて体を動かしたほうが、疲れて眠れるかもしれない。  外に出られる格好に着替えると、そっと部屋を抜け出した。そういえば、家族も寝静まっている中こんなふうに家を出るのは初めてだ。  少しの音も立てないようにゆっくりとドアを閉じ、鍵をかける。いつもの0.25倍の速さで鍵を引き抜く。ようやく呼吸を再開できた。
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