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サエカの手を取ると私の体は浮かんだ。見えない道を歩くように足を進めると、部屋の窓から出ることができた。
「これ、落ちない?」
「落ちない。私の手を離さなければ」
「……離したら落ちるんじゃない」
サエカに続いて階段を上るように歩くと、どんどんと地面が遠ざかっていく。
家の屋根が遙か下に見えるようになっても、まだサエカは上り続けた。
「ねえ、どこ行くの?」
「うん。そこへ行くの」
結局どこかわからないままサエカの後に続く。
よく同級生の話している駅前の喫茶店や、可愛い服の売っているデパートは閉まっているはず。この時間帯に何処へ行くと言うのだろう。
「ここだよ」
サエカが私を振り返ったのは雲の上だった。月の光に照らされて、そこはとても明るかった。
やはりこれは夢のようだ。ただの生身の人間がここまでこれるはずがない。
「ここ? 何をするの?」
「ここ。貴方の思い通りの事を」
サエカは私に好きにしていいと言ったのだ。でも、こんな所で好きにしていいと言われても、戸惑うばかりである。
「サエカは何がしたい?」
「貴方がしたいと思うことをしたい」
手を繋いだままのサエカは私の方を見て微笑むばかりである。
私は少し迷いながらも、下にある雲を掴もうとした。それは、子供なら誰もが夢見ることで、昔、私も見た夢だった。
「昔ね、この雲が綿菓子みたいだなって思ったの。きっと柔らかくて甘いんだろうなって」
「綿菓子? 美味しいね」
サエカも同じように雲を掴もうとする。しかし、ここは現実的で、雲を掴むことは出来なかった。
「昔、お祭りで食べた。黄色と緑の綿菓子」
「あれ? サエカも? 私も食べたんだ。黄色と緑の綿菓子。懐かしいな」
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