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「そのお祭りでクラスの子見かけた。話しかけられなかった」
そう。私も話しかけられなかった。クラスで休み時間に話しかけてきてくれる優しい女の子。
「ずっと後悔してる」
中学に入って、だんだん話さなくなった子。諦めないで自分から声をかけていたら何か変わっていたのだろうか。
「私、その子の話、したことないよね?」
「ない。でも知ってる」
どうして。その言葉が出なかった。彼女の姿が、自分の姿に見えたから。
「私は貴方のことをすべて知っている。中学の頃後悔して、今のままなら高校でも後悔するよ?」
私は黙ったまま何も答えられなかった。あの後悔をもう一度味わうことはしたくなかった。
「……貴方はおばけ?」
「貴方がそう思うなら」
私の姿のまま、彼女は答えた。
「貴方は……私?」
この質問にも彼女は笑って答えた。
「貴方がそう思うなら」
そろそろ帰る時間だ、とサエカは私を引っ張る。月の位置がだいぶ上に上がっていた。
家につくと、サエカは私を窓から部屋に入れた。サエカは入ってくる気はなさそうだった。
「楽しかった?」
「ええ。普通の友達とだったらこんな事できないわ」
私は笑っていた。久しぶりの、心の底からの笑みだった。
「私はこれからも遊び続ける。……貴方の代わりに」
「私の代わりに?」
「嫌になったらいつでも呼んで」
サエカは、そう言うと窓から消えた。暗闇に溶けるように、輪郭が柔くなって、そこには何もなくなった。
サエカがいなくなると、今夜の一連の出来事が夢だったんじゃないかと、思えてくる。
雲の上に行ったり、夜空を散歩したり。現実ではありえない話ばかりだ。
意識がふわふわとしてきて、目を開いていられなくなる。私は目を閉じて、意識を手放した。
*
「貴方は私。私は貴方」
ふわふわと宙に浮かぶ女の子が呟きながら前転をするように、ゆったりと一回転する。まるで宇宙船の中にいるような身軽い彼女のことは、周りの誰からも見えない。
「貴方が不自由な代わりに私が自由になる。もし貴方が自由になったら……」
彼女は一呼吸おいて小さく笑った。
彼女と『貴方』は同一人物。『貴方』が叶えることのできない夢を叶えるための都合のよい幻。
「私は必要なくなるね」
〈Fine〉
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