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月の下、窓枠の上
「貴方はどうしてそんなに自由なの?」
ベッドの端に腰掛けて、私は首を傾げて問う。すると彼女は微笑んで答える
「私はこんなに自由なの」
満月を彼女は背負っていた。
*
いつからか現れた。そいつは不思議な存在。月の満ち欠けに合わせて姿が薄くなったり、濃くなったり。
東向きの窓に月を背にして、彼女は座っていた。
「いつもこんな時間に来てて怒られない?」
「怒られない。私は自由だから」
彼女の日本語は怪しい。それにもそろそろ慣れてきた。
「貴方の名前は? 私は冴香」
「私の名前はサエカ」
「貴方の名前も『さえか』っていうの?」
「私の名前もサエカっていうの」
彼女──サエカは満足したように笑った。
肩までのボブヘアが風に揺れる。コオロギや鈴虫のなく声が聞こえる。金木犀の甘い匂いが香る。
車のクラクションや人の話す声は聞こえない。現実なのか夢の世界へ迷い込んでいるのか分からなくなる。
「私も貴方みたいに遊びに出れたらいいのに。こんなに厳しい家、他にないわよ」
「私は遊びに行く。貴方も自由になる?」
手を伸ばして問うてくるサエカに、私は目を見開く。
「今から? 昼間だって遊びに行けないのにこんな夜に行けるわけ無いじゃん」
「今から。大丈夫」
にっこりと微笑んで手を伸ばしてくるサエカの手を掴んだのはそんな秋の空気に呑まれていたからかもしれない。
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