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エアン
裸足で地面を歩く生活は、別に苦じゃなかった。地面と同じ色でボロボロの服を着ていても嫌じゃなかった。それは多分、生まれた時から貧しくて、そんな生活しか知らなかったからだろう。
俺はずっと布が天上の狭い家で母さんと二人で暮らしてきた。父さんの顔は知らない。娼婦の母さんですら俺の父親が誰なのかわかっていない。
それでもよかった。母さんはそれなりに俺を大事にしてくれたから。寒い夜に一人でも我慢ができた。母さんは俺のために自分を売っているんだと思えば泣き言の一つも漏らさなかった。
俺が住んでいた場所は、俺たちと同じように布を張って家となす貧しい人たちが暮らす郊外だった。金を稼ぐために自らの体を売る仕事をしている人は結構いた。でもその中で母さんは、いい意味でも悪い意味でも浮いていた。凛とした顔立ちに手入れを怠らない綺麗な長い髪、おまけに身長も高めなためスタイルがいい。だから客が大勢つくのだ。
でもそれ故贔屓されることもよくあるため、人気のある母さんを妬み鋭い眼差しで見る娼婦たちがいる。更に俺が誰との子かわからないという事実をよく思わない人たちは、離れた所で母さんの悪口を言っている。要するに母さんと俺が住んでいたスラム街で、俺たちはのけ者だった。
だからだろう、突然の転機に乗っかり母さんが惜しみなくその場所を離れる決断をしたのは。
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