大きな栗の木の下で

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 なんとなくいつかこういう時が来るのではないかと思っていた。僕は小説家を目指していた。バーでバイトをしていた時に僕は彼女に拾われた。夢を追いかける姿に惹かれたらしい。彼女に書いた作品を何度か見せた。褒められれば有頂天になり、ウケなかった時は酷く落ち込んだ。彼女との生活は僕から言葉を奪っていった。  どうすれば彼女に喜んでもらえる?  どんな言葉を選べば満たせられる?  僕の思考は彼女のためのものになり、紡ぎ出される文章はひどく陳腐な物になりかわった。なによりそれが自分の中で許すことができなかった。燻っているのはわかっていたが、彼女と離れる選択がどうしてもできなかった。彼女といる時間が幸せだったから。  僕は部屋を出て行った。ああ、終わってしまったな。なにか意地を張れば良かったのか?反論すればよかったのか?こうすれば彼女に見限られることなんてなかったじゃないか?なんて考える姿そのものが浅ましくて自分に嫌気が差す。  大きな栗の木の下で。大きな夢を。大きく育てましょう。 彼女が好きだった歌が脳裏から離れない。 
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