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大きな栗の木の下で。おはなししましょ。みんなでわになって。
鍋が煮える音が静かになった。彼女の歌声がよく響く。すると同時にほんのり漂っていた野菜の甘い匂いが変わった。力強く、濃厚な香り。赤ワインの煮える匂いだと気づいた。今日のご飯はどうやらビーフシチューらしい。
「お風呂が沸きました」
オルゴールのような電子音とアナウンスが風呂場から響いた。
「鍋、煮込みの段階に入ったからお風呂先に入ってもいい?」
彼女は少し汗を掻いていた。涼しくはなってきたとはいえ、調理場は暑くなる。
「いいよ」
少し体が冷えていたので、先に入りたいかな。と言いかけてやめた。彼女が入りたそうだったからだ。
風呂から上がるとレタス、トマト、キュウリが切り分けられていたサラダに焼きたてのトースト、ビーフシチューが並んでいた。服を着替えて席に着くと彼女がワインを持って僕の前に座った。
「これ飲みたいな」
「いいね」
そう答えるとワインを僕は取り出した。ワインを開けるのは僕の仕事だ。ソムリエナイフを使いこなし、キャップシールを剥がし、コルクを抜いた。まず彼女のグラスに一杯注いだ。自分のグラスにも注ぐ。彼女はグラスに一口付けると満足そうに微笑み、口を開いた。
「今日でこういう関係、終わりにしようか」
「うん、そうしようか」
どうして。別れたくないよ。と言いかけてやめた。そんなことをいう男はつまらないだろうと思ったからだ。
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