無色透明

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半井(なからい)様。お疲れ様です。緊急で申し訳ないのですが、半井様に請け負っていただきたい仕事が一つ入りました。本社までお越し下さい」  タイトルに緊急とついていたから何事かと思ったけど、どうやら相当急いでいるらしい。どうせ予定もなかったから別にいいんだけど珍しいな。  俺は人材派遣会社に登録をして仕事をしている。ただしこの人材派遣会社はちょっと変わってるというか、普通の派遣会社と違う特徴がある。それはいわゆる「エンジニアが欲しい」「総務の仕事ができる人が欲しい」など専門職で働ける人が欲しいというものではない。「こういう設定の人が欲しい」というものだ。  社内調査をしたいから中途採用で入ってきたのを装って半年だけ働いて欲しい、そのため客観的に判断できる冷静な人間を頼む。結婚式に友人として五、六人見繕って欲しい、お葬式に参列してほしい、恋人役をしてほしい、本当に様々だけど。要するに「特定の相手を騙すためにこういう人になりすましてほしい」というニーズに応えることが多い。そういうことができるには当然優秀な人間が揃うわけで、専門職をいくつも身に付けているとんでもなく凄い人たちも働いている。  俺は別にいたって普通なんだけど、長年演技をしていたことがあって普通の設定の人であれば演じることができる。  今回はなんだろう、急ぎということは締め切りが設けられているということで。期日があるのは結婚式とか見合いとかそんな感じなんだろうけど。  会社に着いて仕事の説明を受けようとしたら、本当に珍しいことに社長と面談だった。一派遣社員である俺が社長と話す機会はほとんどない。社長が話を持ってくるならかなり重要な案件ってことかな。 「久しぶり。早速なんだけど仕事の話な」  社長のヒナミさん。火男、とかいてヒナミ。ネタにできるんだったらひょっとこさんって呼ぶんだけど、まあまあイケてる見た目のおっさんなので恐れおおくてその呼び方はできない。 「少し特殊な要望でね。失踪した自分の息子に完璧に化けて欲しいそうだ」 「……。ツッコミどころがいくつかあるんですけど」 「俺も同じ内容でツッコミ入れたいから先に説明するぞ」 「はい」
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