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第9話 畑近くのダンジョン
コルタナさんから、薬草の採れるダンジョンの位置を教わった。レベルの高い薬草を採取できるが、モンスターも強いという。ウチの畑からも近い。
一度入ったダンジョンに再度入ってみたけど、もう手応えがなくなっていた。それくらい、ボクも強くなっているんだ。
新天地へ向かうのも、いいかも。
その前に、ビルドの見直した。
「探索系を増やすか、戦闘時間の持続を長くするか」
どっちにも気を使うと、中途半端になってしまう。
今は、探索がしたい。まだ、ボクのレベルでもそれなりに戦えている。職業がテイマーなので、ボク自身のスキルを上げたところでたかが知れていた。ならば戦闘の技能は、ワラビに振ってあげたい。
「戦闘スキルを本格的に上げるのは、ダンジョンに慣れてからにしたいな」
「それでいいと思うぜ。今必要なのは、金策だろう」
「ですよね」
ボクは、探索系のスキルを上げていった。残ったポイントは、防御系に振る。
武器はオーソドックスに、ショートソードと盾にした。前回使った棍棒は、ショートソードの材料にしている。草木が生えている中を進むので、刃物がほしい。
「道が複雑だから、今日はワタシが運転するわ。ツヨシくん、ついてきて」
原付でセンディさんたちの乗る車についていき、ダンジョンへ向かう。ヘルメットはやはり買った。ワラビは、背負って連れて行くことにしている。
ダンジョンの名は、【迷いの森】というらしい。昔は神隠しに遭う場所として、恐れられていたそうだ。今では解析が進み、ダンジョンと認定されている。
森がそのままダンジョンになっているなんて。現代日本でも、まだまだ神秘的な場所は残っているんだな。
さっそく、薬草を摘む。たしかに、育ちのいい薬草ばかりだ。
「ここのコケは、魔素が豊富で絶品ですね。このダンジョンに、住み着いてしまいたいくらいです」
ワラビはおいしそうに、木の根っこにへばりついてコケを食べている。
「成長痛って、どうして起きるんですか?」
「寄生レベルアップの防止よ」
強い冒険者に同行して、何もせずにレベルアップをする初心者が、昔は大勢いたらしい。その行為を、他の冒険者は寄生と呼んで忌み嫌う。
だが、急激なレベルアップは冒険者にも影響が起きる。身体じゅうに痛みが走り、体内の細胞を急速に促進させるのだ。
「だから、最近は順序よくダンジョンを進むように推奨されているの」
ボクのやったことは、かなりムチャだったみたい。ほぼソロで、ボスと戦っちゃったもんね。
「ツヨシ、ここは昆虫型が多数生息しているから、気をつけろよ」
「そうよ。こんなふうに!」
コルタナさんが、杖から氷の矢を放った。ハチの大型モンスターを撃ち落とす。
センディさんも、背後に忍び寄ってきたクモの糸を、振り向きもしないで切り落とした。遠くで、糸を吐いたクモごと真っ二つになっている。
「ワラビ!」
「はい。マスターツヨシ」
ボクが指示を出すと、ワラビは周辺の警戒を始めた。
「囲まれています」
「よし。迎え撃とう!」
背負っていた盾を構えて、攻撃に備える。
「来た!」
人間より大きなカブトムシが、ボクの真上に降下してきた。
盾で防いだけど、腰が砕けそうになる。なんて重い攻撃だ。これが昆虫型の重量か?
「まだまだ!」
ボクは角を持って、カブトムシに背負投げを食らわせた。ボキン、と、カブトムシモンスターの角が折れた。さっきの突進を防いだことで、角にヒビが入っていたらしい。
だが、こっちの盾もダメになった。
ボクは盾を捨てて、カブトムシと一騎打ちをする。
カブトムシ型の魔物が、背後を前足で払った。ワラビが、カブトムシの羽根を溶かしていたのだ。これでヤツは、もう飛べない。
敵にダメージを与えたワラビが、ボクのもとに戻ってくる。
折れた角を前足でつかみ、カブトムシが剣豪のような構えを取った。まだやる気か。
木を背にして、相手の動きを探る。
カブトムシが、角を振り下ろしてきた。
グルンと回転して、ボクは攻撃をかわす。
極太の幹が、カブトムシの角によってへし折れた。メキメキと音を立てて、木が倒れる。
「サポートします」
ワラビが、ボクの足に取りついた。スノーボードのように、足に平べったくまとわりつく。
たしかに、ボクだけの力じゃ勝てないかも。
足さばきと回避運動は、ワラビに任せる。ボクは、攻撃に集中した。
また、カブトムシが突きのために踏み込んでくる。
ボクも、前に突進した。剣でカブトムシの角をさばく。カウンターで、カブトムシの心臓部を貫いた。
カブトムシの目から、光がなくなっていく。
なんとか、倒したようだ。
ワラビがいなかったら、あんな攻撃方法なんて思いつかなかった。
「ありがとう、ワラビ。ケガはない?」
元のサイズに戻ったワラビを、抱きしめる。
「はい。マスターツヨシも、ご無事でなによりです」
センディさんとコルタナさんも、ボクたちを囲んでいた魔物たちを蹴散らしたみたい。
とはいえ、ボクの武器は溶けてしまっていた。剣の先が半分、酸でなくなっている。これでは、戦闘を続行できない。
「今日はもう、帰りましょう。十分仕事はできたわ」
「だな。ツヨシ、帰ろう」
二人も疲弊しているが、戦利品を大量にゲットして大満足の模様だ。
ボクは、倒したカブトムシの角を持って帰ることにした。
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