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――昨日より行方不明になっておりました80代女性は先ほど発見されました。繰り返します。昨日より行方不明になっておりました80代女性はさきほど発見されました。捜索にご協力いただきましたみなさま、ご心配いただきましたみなさま、ありがとうございました――
あれは私が六つの頃のできごと。
夕日が照らすあぜ道を、七つ年上の兄に手を引かれ歩いていた。
町内放送を耳にした私は、兄の手を引っ張り微笑んだ。
「よかったね。琴石のおばあちゃん見つかったんだ」
「ん? ああ……」
「みんな、ほっとしただろうね」
琴石のおばあちゃんは、懇意にしていた近所のおばあちゃんだ。血縁関係ではない。けれど、おばあちゃんは会うたびに飴玉やチョコレートをくれるやさしい人だった。
前の日の晩遅く、おばあちゃんを見かけなかったかと家族の人が訪ねてきたのを覚えている。父はすぐに懐中電灯を片手に家を出た。大丈夫だから寝ていなさいと母に制された私と兄は、出かけていく父の後ろ姿を二階の窓からそっと見送った。
朝方に戻った父は、酷く疲れた顔をしていた。
「小春」
「なぁに? おにいちゃん」
「みんなの前で喜んじゃいけないよ。残念だけど、琴石のおばあちゃんはもう帰って来ないんだ」
「どうして? おばあちゃんは見つかったんでしょう?」
納得できずに問いかけると、兄は立ち止り私の頭を撫でた。潤んだ目からは涙が零れていた。
二十年経った今も、私はその表情を鮮明に覚えている。
「おばあちゃんは遠くに行ってしまったんだ。発見されたということは、そういうことだよ」
「見つかったのに遠くに行っちゃったってどういうこと? わからないよ」
「わからないなら、それでいいよ」
「やだよ! 教えてよ、おにいちゃん」
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