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百日参り
石川県金沢市は11月下旬ともなれば”鰤起こし”なる雷が轟き、近江町市場には新鮮な鰤が並びズワイガニが脚を動かしながら口元で泡を吹く。
「久我、早く来い」
「あ、はい」
ピッ
車の鍵を閉め振り仰いだ銀杏の葉はすっかり枯れ落ち、灯籠の足元には初雪の名残があった。日数的にはやや早いが今日は真夏のお宮参りと百日のお食い初めを兼ねて尾山神社に参拝した。
「もう三ヶ月たぁなぁ」
「早いよね」
「この前は首を上げていましたよ」
「なに!俺は見とらんぞ!」
首もすわり、隼人の顔にも慣れた真夏の成長はめざましく可愛らしい盛り、竹村と隼人の携帯電話の画像フォルダは真夏で溢れかえっている。
「お、久我、頼んで来てくれ」
「はい」
竹村は境内を散策している観光客に、「家族写真を撮って欲しい」と頼むよう隼人に言い渡した。それは快く引き受けられ、隼人は砂利の音を立てながら慌てて戻ると真昼の隣に立った。
「はーい、撮りますよ、お父さんもっと近付いて下さい!」
その声に竹村が反応した。
「久我、良い加減慣れたらどうだ」
「いえ、やはり」
「なに照れ臭がっとるんだ、気持ち悪ぃな」
カシャ
「そういうお父さんだって」
「なんだ」
カシャ
「いつまで久我って呼ぶのよ」
「んーまぁ、そのー久我は久我だ」
「なに照れ臭がってるのよ」
カシャ
「いえ、私は久我でもなんでも良いのですが」
「良いわけないじゃない!」
「はぁ」
カシャ
「あ、お父さん、遠いですよ!」
カシャ
「あ、はい」
「思い出すよね」
「なにをですか」
「忘れたの!」
「はい」
「三人で厄落としに来たでしょ!」
真昼が隼人の頬をつねった。
「あ、あぁ」
「それで結婚したのよ、覚えてないの!」
「あああぁ、お義父さんの嘘ぴょーーんですね」
カシャ
「あ、お母さん、こっち向いて下さーい!最後にもう一枚!」
「ほれ、隼人、真昼、前を見ろ」
カシャ
「え」
「隼人」
「は、はい!」
耳まで赤らんだ竹村の横顔に微笑む。
「隼人だって」
「うるさい!」
顔を見合わせた真昼と隼人の小指がそっと触れた。
カシャ
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