それは、きっと君だったのでしょう

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今日もまた目が覚めると、目から涙が溢れていた 夢ではっきりと捉えたのは淡い青色の着物 俯き何かを書いている後ろ姿だった その背中に触れようと手を伸ばしても届かなかった   いや、何故か分からないけれど 『この人に触れてはいけない』と、そう思ったのだ 手に入るものではない、そう感じた ベッドの上で同じ様に手を伸ばしてみても掴むのは空気だけ 夢のくせにどこか妙にリアルで気に入らなかった 何度も同じ夢を見る事に不満もある どうせなら鳥みたいに空を飛んだり、好きなアイドルと付き合う様な夢らしい夢が見たいものだ 溜め息が出そうになった時、カーテンの隙間から朝日が射し込んで、鼻先が擽ったくなった 『ん…?』 ふと気付いたのは、鼻に少しだけ残る香り 香水?…違う…、お香だろうか…? 甘くて優しくて、どこか儚い香りだった どこかで嗅いだ覚えがあるだけなのか 分からないけれど 確かに胸の奥の方で、また懐かしさを感じた 香りとは不思議なもので 記憶が無くても香りで覚えている時がある 人は"香り"と言うものを最後まで記憶すると聞いた事がある 『どこかで嗅いだ覚えがある』は、きっとどこか で必ず嗅いだ事があるものなのだ、と でも、例え香りを覚えていても、どこで嗅いただなんて全く覚えていない まぁ、人の記憶とは曖昧なものなのかもしれない 記憶をいつしか妄想に摩り替え 勝手に作り、武勇伝だとか美談にしてしまうのかもしれない この香りだって、街ですれ違った誰かの香水かどこかの店の前で焚かれていたもの そう、意味など無いのだ いくら不思議に思ったとしても、あーだこーだと妄想して楽しめる訳もなく "これもまた経験"として刻むのだ
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