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月光が屋根に染みこむ深夜零時。
夜道は俺の足音だけで、鼻唄を添えると孤独感が際立つ。今日こそは奴に会えるかもしれない。
ふと、背後に何かが刺さった気がした。気を辿って、月光に浸った夜空を見上げた先に女の子がいた。知らない子だ。
「なにしてるの?」
女の子は僕に気を刺しながら近所迷惑に叫ぶ。
「夜の散歩。日課なんだ」
「いいね。私も月を眺めるのが日課なんだ。君もおいでよ」
一階は米屋、二階と三階は米屋の爺さん婆さんの家、彼女はそこの屋上にいた。
「おいでよってどこから入るの」
「勝手口の門扉から裏階段で行けるよ」
「ここは君の家なのか?」
「違うよ。不法侵入した」
米屋の裏にまわり、開きかけの門扉を抜け、静かに階段を上がり、群青と瑠璃を混ぜて塗りたくった夜空に呑まれた。
「こんばんは。いい月夜だね」
大きな満月が見下ろし、夜風と戯れる彼女の黒髪は月光でときに白金色に艶めく。見た目からして同い年だろう彼女は黒猫のような目で俺を招いた。
「ここにはよく不法侵入しに?」
「まさか。今日が初めてだよ」
「誰かに見つかったらどうするのさ」
「飛び降りればいいよ。ここらへんで一番月が綺麗に見えるところを探してたら見つけたんだ。穴場スポット」
「人ん家だけどね。月が好きなの?」
「恋の対象だよ。月に焦がれているの。君はどうして夜の散歩を?」
「ドッペルゲンガーを探しに」
彼女は目を大きく開いた後、三日月に歪めて言った。
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