不法侵入

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「月は人を狂わせる」 「えっ?」 「月には不思議な力があるんだよ。だから摩訶不思議なことが起こっても可笑しくない。死んだはずの者が蘇ったり、別のなにかに変身したり、異世界に行ったり、ね?」  彼女は蠱惑的に微笑み、月を映した瞳が妖麗に綺羅めいている。 「月に狂わされてドッペルゲンガーを見たってなにも可笑しくない。だからきっと会えるよ」  俺たちは月を見上げた。彼女は恋慕の眼差しでそれを見ては、ほぉっと吐いた。それを見て、俺は咄嗟に思いついたことを口走った。なんでこんなことを思いついたかはわからない。 「死んだら月に行きたい」 「行けるよ。月は死者の国だから」 「そうなの?」 「私の妄想と願望だよ。生命は宇宙からきた。死んだらお宙に帰っていく。その拠り所が月だと思うことにしてるんだ」 「君はどうして月が好きなの」 「月に愛されたいから」  彼女の指先は唇に触れ、月にのばされる。それはとても神聖で清謐で純粋な接吻だった。 「恐ろしくて愛しい綺麗な君と、死んだらひとつになれる。私のところに堕ちておいで。愛してるよ、永遠に」  彼女の指先は夜風を撫で、月光は後腐れた恋情のように肌にまとわりつく。
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