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東京で迷いに迷って、ようやく書店の最寄駅に降り立った。早く決着をつけたい。キャリーケースを引いて、くるみは書店へ歩き出した。
また少し道に迷って、書店を見つけた。ガラス張りの正面から店内を覗いて、くるみの心臓はばくばくと打ち始めた。松浦さんはいない。
入ってみようか。奥にいるのかも。それとも今日はシフトに入っていないのかも。そもそも松浦さんがここで働いているとは限らない。自分の店で買った本じゃないかもしれない。想像は悪い方向に転がり落ちてゆく。
ガラスの引き戸は重いし、キャリーケースは邪魔だし、もう帰ってしまおうか。そう思ったとき、店員さんが駆け寄ってドアを開けてくれた。キャリーケースも預かりましょうかと言われてしまえば、お願いするしかない。「松浦さんはいますか」の一言が、どうしても言えない。
植物の棚を見たらもう帰ろう。くるみが決意したとき、あの穏やかな声が聞こえた。
「ああ、店長には僕から伝えておくね」
「ありがとうございます」
松浦さんと、若い女性の会話。それだけでくるみの目には涙が滲んでくる。
私、ばかだ。松浦さんにはたくさんの人間関係があって、庭でたまに会う私よりずっと親密な時間を過ごしていて、きっと……。
はっきりさせなきゃ、ずーっとつらいだけだから。
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