ブックカバーの感触を確かめて

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 東京で迷いに迷って、ようやく書店の最寄駅に降り立った。早く決着をつけたい。キャリーケースを引いて、くるみは書店へ歩き出した。  また少し道に迷って、書店を見つけた。ガラス張りの正面から店内を覗いて、くるみの心臓はばくばくと打ち始めた。松浦さんはいない。  入ってみようか。奥にいるのかも。それとも今日はシフトに入っていないのかも。そもそも松浦さんがここで働いているとは限らない。自分の店で買った本じゃないかもしれない。想像は悪い方向に転がり落ちてゆく。  ガラスの引き戸は重いし、キャリーケースは邪魔だし、もう帰ってしまおうか。そう思ったとき、店員さんが駆け寄ってドアを開けてくれた。キャリーケースも預かりましょうかと言われてしまえば、お願いするしかない。「松浦さんはいますか」の一言が、どうしても言えない。  植物の棚を見たらもう帰ろう。くるみが決意したとき、あの穏やかな声が聞こえた。 「ああ、店長には僕から伝えておくね」 「ありがとうございます」  松浦さんと、若い女性の会話。それだけでくるみの目には涙が滲んでくる。  私、ばかだ。松浦さんにはたくさんの人間関係があって、庭でたまに会う私よりずっと親密な時間を過ごしていて、きっと……。  はっきりさせなきゃ、ずーっとつらいだけだから。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!