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会いに行くって決めたから
「松浦さん」
一人作業に戻った松浦さんに声をかける。眼鏡の奥の目がまん丸に見開かれて、くるみをじっと見つめてから、その瞳に涙が浮かんだ。
「来て、くれたんですか」
「仙台から来ました」
「……! いつまでこっちにいますか?」
「えっと、たぶん、数日」
松浦は照れて目を逸らした。くるみはどうしたらいいかわからなくなって、意味もなく指を絡めたりほどいたりした。
「えーっと、高橋さん、今日の夕ごはんって決まってますか」
「あ、決まってないです……」
「あの、僕と食べませんか」
「はい。嬉しいです」
くるみが「嬉しいです」と言った瞬間、松浦はくしゃっと笑みを見せた。嬉しくて仕方ない表情だった。それでくるみは、来て正解だったと確信した。
「本、見てってください。選書もするし、あ、カフェもあるから、僕にツケてもらうよう言っておくので好きなものを頼んでください、えっと……」
松浦は照れた早口で言い募った。くるみは幸福で仕方なくて、笑い出さないように口を結んだ。
「夕ごはん、何が食べたいですか」
「松浦さんのおすすめがいいです」
「わかりました。あの……」
松浦は握った手を口に当てて黙り込む。
「……?」
「お店を選んでおきますけど……デート、のつもりで選んでいいですか」
「はい」
あまりに幸福で、くるみは手で口を覆った。ここは書店なのだから、笑ってはいけない。笑い声は今夜の「デート」に取っておこう。
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