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「あの庭が、一樹さんと私のキューピッドですね」
「キューピッドですけど、仲人ではないと思いますよ」
「どういう意味?」
「庭は、落ち着く場所に棲みついているだけな気がします。意思があって人を選んでいるわけじゃない。火事があったから、危険を感じてくるみさんの大学に棲むのはやめたんでしょう」
「なるほどー」
「くるみさんが東京まで来てくれたから。くるみさんが決心してくれたからですよ。誰かの力じゃない」
一樹は横を向いて、涙目をごまかすようにまばたきをした。ずっと顔を逸らされている。正面からくるみを見つめるということがない。くるみは不満に思って、強硬手段に出ることにした。
手を伸ばして、テーブルの上に出ている一樹の手を包み込む。
「うう」
「なんですか」
「くるみさんは勇気がある」
「顔を見てくれたら離してあげます」
「うう……。別に離してくれなくていいです」
「あら。大胆」
「大胆じゃないです」
4歳上の好きな人は、全然リードしてくれない。それでいい。自分がエスコートする恋愛をしてみよう。
くるみは、自分に人生を切り拓く力があることを知った。会いたい人には会いに行けばいい。好きな人の手を握ればいい。
箱庭は、広い世界へと続いていた。
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