金木犀の庭へようこそ

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 そろそろ寒くなってきた。また暖かい日にこの庭に来て、ゆっくり時間を過ごしたい。ここはどこなんだろう。この建物は何学部の建物だっけ?  きょろきょろ見回して、くるみはスマホを取り出した。「圏外」。 「えっ!?」  この地方ではそこそこ有名な大学なのだ。その敷地内で、周囲に建物もある場所で「圏外」なんてことがあるだろうか。建物に電波が遮られているのかな……? いや、スマホ側の異常かもしれない。  くるみはスマホを再起動しながら庭を出た。だいぶ日が暮れてしまった。寒くて片手をポケットに突っ込む。 「理学部と実験棟の間ね」  建物の名前を覚えて、くるみは正門へ向かった。歩き回って疲れたけれど、上機嫌だった。それほどあの庭は素敵だったから。今日あったこと全部が、あの庭との出会いに繋がるラッキーに思えた。  元彼はブロック。スマホごと手をポケットに突っ込む。  しばらく恋愛はお休み。暖かい日にあの庭へ行こう。あそこで本を読んだら素敵じゃない? もっと知的な女になって、元彼全員を悔しがらせてやる。
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