金木犀の庭へようこそ

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金木犀の庭へようこそ

 ちぇ。拗ねた気持ちで蹴飛ばしたどんぐりがぽちゃん、と水に落ちる音で顔を上げた。こんなところに池なんてあったっけ?  高橋くるみは、どんぐりの転がった方を見て驚いた。大学の中に、こんな華やかな庭があったなんて。  失恋のショックで、あてもなくキャンパスをふらついて数十分。こんな綺麗なスポットを見つけられるとは思わなかった。モヤモヤと沈む気持ちが少し晴れて、くるみは嬉しさに目を細めた。  くるみの見つけた「庭」は、建物の隙間にありながら植物で溢れていた。四角い空き地の三方を金木犀の生垣が囲んでいる。ちょうど金木犀が香る季節で、可憐なオレンジの花が樹を埋め尽くすように咲いている。くるみは思い切り息を吸い込んだ。華やかで甘い香りが、身体に染み込んでいく。  庭はそれほど広くない。高校の教室二つは収まらないだろう。中心には、まるい池があった。  完璧な円の形に掘り抜かれた人工的な池だ。内側に白いタイルが貼られ、洋風の柵が周りを囲んでいる。くるみの蹴ったどんぐりは、この池に落ちたのだった。  くるみが歩いてきた通路から庭の全体を見渡せた。池を囲むように花壇とベンチが配置されている。さらに魅力的なのは、手入れのいい芝生で覆われていることだ。大学はどこもアスファルトかコンクリートの地面なのに。  すごくラッキー。こんな素敵な場所を見つけるなんて。あいつに「フッてくれてサンキュー」って言っとくか。  くるみの胸のズキズキが軽くなり、わくわくに変わっていく。芝生に踏み込むと、ふかっと心地いい感触だった。にまり、と思わず口角が上がる。ふかふかの絨毯を歩いてるみたいだ。
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