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犬飛くんの腕の中には、黒い筒があった。犬飛くんは、黒い筒を抱きしめて倒れていたのだ。
「……やっぱり、黒い筒が狙いだったの?」
私は櫻井さんのほうを振り返った。
正確には、櫻井さんの背後にある「影」のほうを。「影」は、櫻井さんとは比にならないほど大きく、教室の天井まで届くくらいだった。
「影」は語らず、ただうごめくばかりだ。
「……その子から離れて」
私は「影」に向かって言った。
「あなたの世界に戻りなさい。あなたには渡さない、この黒い筒も、櫻井さんも」
するとどこからか風が吹き、「影」が揺れた。
そして膨らんだ。「影」は膨れ上がって、櫻井さんに覆いかぶさった。
すると、櫻井さんがゆっくりと顔を上げ、そして立ち上がった。私のほうに向かってくる。
その顔に色はなかった。
「……私だって、渡さないわ、あなたなんかに」
「櫻井さんっ」
「犬飛くんは、私のものよ……」
まだ「影」は膨れ上がる。櫻井さんを食い尽くさんばかりだ。
「は? 待って、櫻井さん」
「ずっと……ずっと……好きだったんだから……犬飛くんは、誰にも渡さない……」
「ま待って」
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