「化ける」を考える

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「鶴の恩返し」なんて昔話がありますよね。  男が助けた鶴が美女に化けて「お嫁にしてください」みたいに押しかけてきて……美女の押しかけ女房だけでもうらやましいのに、なんと夜に自分の羽根で綺麗な着物を織ってお金持ちにまでなっちゃうってね。  かあぁーっ、これぞ私の理想!  もう齢五十、チビ・デブ・ハゲをコンプリートしたうえ、高齢ニートにして子供部屋おじさんという無双を極めた私からしたら、大歓迎のエピソードでございますですね。  この話で男は好奇心を抑えきれず、夜鶴の正体をあらわして機織りしてるとこを覗き見してサヨナラとなってしまうわけですが、現実を見ずに五十年生きてきた私からすれば、「怪しいな」とは思っても美女の妻とお金がじゃんじゃん入ってくるのを受け入れますね。  ええ、受け入れますとも!  中年が何分不相応な好奇心発揮しとるのだと、男にはビンタをお見舞いしたいくらいですよ。  でもまあ、現実のところ「本当は怖いグリム童話」みたいに、この昔話も女の正体は鶴だったんじゃなくて、遊女とかだったんじゃないですかね。  それで夜な夜な家を出て行く女を、男が不審に思って後を追ったら遊郭だったとかね。  私ですか?  ええ、追いかけませんとも!うすうす知ってても美女とお金という極上のぬるま湯をどうして手放しますか、っていうね。  あー、誰か現実で動物でも女でも困ってないかなぁ。SNSではむかし「奨学金の返済に困ってる」ていう二十代のOLに三十万円だまし取られた黒歴史がありますからね……しかも彼女っていうかそのOLは男だったってオチまでありますからね。  やはり器の小ささが「おちょこの裏側」といわれる私の徳のなさが災いしてますですね。  あと、最近ネットのツイッター……じゃないや、Xですか?あれのマンガとかで流行ってる「親友がある朝突然女になった」とかの性逆転ものね。  うらやましい!  急に女になったことで戸惑って落ち込む親友をあれこれ助けてあげてるうちに、親友から恋人になるっていう。  親友どころか友だちが一人もいない私からすれば、うらやましくてけしからぁーん!  五十にしてコミュ障、家庭内内弁慶で両親から腫れ物をさわるように扱われてる私には、夢物語ですよ……。  こうやって化ける話を考えてると、やっぱり主人公がいいやつなんですよ。欲がなくて。    自動販売機のおつり出るとこのフタを必ず開けてチェックする私とは大違いなんですよね。  待てよ、自分が化ける側ってこともアリなんですかね?  うーん……だめだぁ!想像力が貧弱すぎて思いつかねぇ……。  せいぜい自分がかわいいポメラニアンに化けてアイドルに飼ってもらう程度の飛躍のない思考力がうらめしい……。  あっ!いやいやいや、今の自分が本当の自分じゃないとしたら?  本当の実力を出してないだけだったら?  努力すれば東大だって入学できるし、大手商社に就職して英語ペラペラで、同期や後輩の女の子から憧れの目で見られてて。  節制してスマートな体型にダイエットして、年収一千万円だから植毛で頭髪もフサフサになって。  「化けてるのは、実は今でした!」っていうオチ。  これはいいですよ!アリです大アリ。  ……あるわけねえぇぇーーっ‼                 終
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