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「神様、俺はなんて親不孝なんだろうな。母ちゃんにあんなこと言わせてさ……優しい息子だったら良かったのにな」
「……あなたは、優しい息子だよ」
ボクは囁くように呟いた。すると、誰もいないと思って話していた男は、やはり驚いたようでガタッと音を立てて、声にならない悲鳴を上げた。
「だ、誰だ!?」
男はボクが入っている個室の外に出てきたようだ。
カーテンの隙間から彼の靴が見えた。
震える手がそっとカーテンにかけられる――。
――どうしよう、見つかっちゃう!
タヌキのボクがいると知ったら、叩き出されてしまうかもしれない。慌てて天使に化けようとするも、未熟なボクは背中に小さな羽を生やすことしかできなかった。
ボクは縮こまり、目をキュッと瞑った。
――ところが、カーテンが開くことはなかった。
男はまた隣の個室へ戻ったようで、ひとつ咳払いをした。
「すまない、つい驚いて……。正体を知ろうなんて失礼な真似をした」
ボクはほっと胸をなで下ろした。
自然と背中の羽も消えていく。
怖くて震えた手をペロペロと舐めて、気を取り直し話しかけた。
「ボクは、今夜は神父様の代わりだよ。えっと、天使だと思ってくれていいよ?」
さっきも「天使」を演じたから、そう名乗ってみた。
男は「そうか……天使か」と優しく笑った。
「あなたは今そうやって後悔しているし、ずっと離れずお母さんを看てきたんでしょ? 優しい息子だよ」
ボクはとにかく彼を励まそうと必死に話した。
頭の中はフル回転だ。
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