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「お母さんは……あなたに迷惑をかけて辛いから、その……死にたいって言っちゃったんだよね?」
「……そうなんだろうな」
ボクが言わなくても、彼はもう全て分かっていると思った。お母さんの気持ちも、自分がどうすべきなのかも。分かっていても感情をぶつけたくなる時ってきっとある。
「今まで頼りにしてきた親が変わっていく姿を見るのは辛いよね。もどかしくて悲しくて苛立ちに変わるのかな。しっかりしてよって……思っちゃうのかな」
ボクはママが老いた姿を想像したら、縋り付きたい悲しみが込み上げてきた。
「母ちゃんも、そう長くは生きられない。笑顔でいさせてやりてぇな……」
「うん、ボクもママには笑顔でいて欲しいもん。一緒に花畑を見に行った時や美味しいものを見つけた時みたいな、あの笑顔!」
隣で男は「ふふっ」と笑った。きっと彼もお母さんとの楽しかった出来事を思い出していたのかもしれない。
「天使さんよ、ありがとうな。話聞いてもらったら、また頑張れる気がしてきた」
立ち上がる音がして、ボクは彼が出て行ってしまう前にと早口で言った。
「いつでも神父様に話をしにきなよ! きっと助けてくれるよ!」
男はカーテンを開けると「また来るよ」と言って帰って行った。ボクはカーテンの隙間から、そっと彼の背中を見送った。
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