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町は静かだった。
人間はもう寝ている時間なのかもしれない。
途中、民家の脇にある樽の上で座っていた猫が、ボクに驚いて突然飛び降りた。
その音にボクの方こそ驚いて、慌てて一直線に走った。
息を切らしながら教会の目の前に着いて、恐る恐る鼻先で古びた扉を開けた。
「わぁ……」
思わず声が出た。
月の光が青いステンドグラスを輝かせていた。
静かな青い光が降り注ぐ神秘的なその光景に、しばし見惚れていると、焦げ茶色の長椅子で人影が動いた。
「おや、こんばんは」
突然のその声に、ボクはパニックになってその場をぐるぐると回ってしまった。――逃げなくちゃ!
「そんな慌てなくて大丈夫ですよ、タヌキさん」
ボクは震えながらも、その柔らかな声にピタッと動きを止めた。恐る恐る顔を上げると、メガネをかけた初老の男がにこやかにボクを見ている。
「ここはどんな方でも歓迎します。今宵はどうされましたか?」
ボクは、屈んだその人の手をクンクンと嗅いだ。
怖い人じゃなさそうだ……。
どうしよう、話してみようか……。
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