無彩色な世界

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 あれから数十分程歩き、目的地のやや開けた場所に到着した。展望スペース周辺の木々は一掃されており、街を一望できるようになっている。街中のどこかしこから光が漏れ出し、暗闇を彩る光の粉が散りばめられているような光景である。  防護柵の前で立ち止まり、私はただ遠い先の光の粒を見つめていた。横へちらりと視線を向けると、虚ろに遠い場所を眺める眼がそこにあった。この眼だ、彼女がいつもバスで窓の外を眺めているときの眼。我々が見ているものとはまた別のものを見ているようで、彼女の眼にはこの景色がどう映っているのか、気になる気持ちが募り始める。  軽く声をかけて視線をこちらの方へと向けさせる。 「は、はい?」  突然の呼びかけに少々動揺をしている様子だった。 「今は、何を見ていらしたのですか?」 「そうだね...。世界のを、見ていたかな」 「色、ですか。というとどういう?」 「例えばあの長い柱状のタワー、あなたの眼には何色に映っていますか?」  彼女はあれあれ!と暗闇に指を指す。  ああ、あの紫と白色にライトアップされている遊園地かなんかのタワーのことか。何色...か、中々難しい質問を投げてくるな。いや、今の私には難しい話ではないか。 「私の眼には、灰色に映っている...かな」 「貴方そうなんですね、良かった。だったら私たち、お仲間さんですね」  そうか、彼女も会社で上手いこといっていないと言っていたな。私と似たようなタイプの人間だったか。なんだかそう思うと余計に親近感が湧いてくる。  彼女は顔に笑みを浮かべて私の方へと視線を向け、それに答えるように柄にもないような笑みを彼女に向け返す。  世界が冷たく、灰色に映る眼であったが、彼女の向ける笑顔には暖かさと微かな彩を感じたような気がした。  背後の暗闇からエンジン音と2つの眩しい光が徐々にこちらへと迫ってくる。車上の見慣れたマークとLEDディスプレイに予約と表示されていることから、タクシーであることは間違いないだろう。  暗闇から現れた車は私たちの前で停車し、運転手が窓を開けて声をかける。名前確認を済ませて彼女、私の順で後部座席に乗り込み、自動で扉が閉められた。
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