無彩色な世界

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 車庫を出発して数分、周囲には生い茂った草と木しか存在せず一向に景色が変わらない。更には落石注意と書かれた看板が所々に置かれている。おかげで私たちがいる場所が容易に想像できた。  教えて貰った電話番号に電話をかけるも、近くを走るタクシーがいないらしく、今からだと到着まで1時間程度かかるそうだ。まあそうだろうなと納得してしまう。  これまたおっちゃんから聞いたことだが、ここから少し上った所に街を一望できる開けた場所があるみたいだ。私たちは時間潰しがてら、教えて貰った場所へと向かうことにした。  にしてもまさか彼女とこんな形で一緒になる日が来るとは、思いもしなかったな。とりあえず無言の間が続くのは居心地が悪いから、何か話を振ってみるか。と思った刹那、彼女が私の方へ体を向けて笑顔で視線を向けた。 「あなた、いつもバスで後ろに座ってる人ですよね?」  なんと彼女が私のことを認知していた。 「ええ、よくご存じで」 「そりゃ気づきますよ。毎日死んだような顔をしている人が後ろに居れば記憶にも残りますって」 「死んだ...顔?」 「あっ!」  死んだ顔...か。まあ世界に興味を持てないとか言っている人間の顔だ。確かにそんな顔をしているのかもな。 「すみません、とても失礼なことを。私、思ったことをすぐ口に出しちゃうタイプの人間で。ってあ、これもまた失言か」 「いや、気にしなくていいよ。私自身もそれは自覚している。まあそんな感じで接してくれる方が私としてもやりやすくて助かる」 「あはは、ほんとすみません。一応は気を付けておきます」  彼女の雰囲気は冷え切った空気をパッと温かくする暖房器具の様で、私は久々に人と話して心地良さを覚えた。 「私会社でもいつもこんなだから、ちょっと煙たがられてるところもあるんですよね。ほんと私ってダメダメだなぁ」 「思ったことをそのまま口に出しちゃうのは抑えた方が良いと思いますが、貴方のその明るい感じの人柄、私は好きですよ」 「ごめんなさいね、いきなり私事を語り始めちゃって。でもありがとうございます。そんなこと面と向かって言ってもらったこと一度もないや」 「いえいえ、こちらこそなんか上からで申し訳ないです」 「そんな、なんたって貴方は人生の先輩ですからね」  そんなやや変わった会話を交わしながら共に歩を進め、目的地へと向かった。
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