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※由比視点
家に帰っても礼嗣はいない。そんな風にどこか寂しさを感じ、由比は夜空を見上げた。今すぐ雨が降りそうだけれど、傘を持っていないし、借りる相手もいない。そんな自分の立ち位置に肺がチクッと痛んだ。
スマートフォンの受信音が鳴った。コートのポケットから取り出し、画面を見た。
【もう家なの?】
幼なじみの明日香からだった。今日は恋人とデートだと聞いていたが、こんな時間に由比の心配をしている場合ではないだろうに。
【帰宅中、どうしたの】
直ぐに既読がつき、新しいメッセージが表示された。
【××駅で江口くんに会った、早く帰ってあげなよ、いい顔して待ってると思うよ】
礼嗣と同じ大学の明日香には、礼嗣の件で相談をしていた。それも「自分で解決しなよ」と冷たくあしらわれた。その通りだと打開策を練っていたところにこれだ。
【どういうこと、なにか喋ったの】
由比の問いに答える代わりに、うさぎが万歳しているスタンプを送ってきた。
「なんだよ、それ」
もたもた歩いている場合ではない、と早足で帰り道を過ぎて夜の九時に帰った。
玄関を開けると、廊下に礼嗣が立っていた。
「おかえり」
礼嗣の声が重く聞こえたのは、気のせいだろうか。
「ただいま、遅くなってごめんね」
まさか礼嗣より遅れて帰ることになるとは思わず、つい謝ってしまった。
「お風呂に入った?」
靴を脱いで洗面台に向かうと、後ろから礼嗣も付いてくる。
「まだ」
風呂に入っていないようで、彼から酒の匂いが漂ってくる。
「そうなんだ、先に入っても良かったのに、どうしたの」
コートを脱いだら、彼が受け取りハンガーに掛けてくれた。
「あ、ありがとう」
普段から礼嗣は冷静で口数が少ない。由比の行動に干渉するくせに、自分は好き放題している。それなのに玄関で待っているなんて、どうしたのだろう。
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