Fortune Hair

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 それからしばらくは秀吉の仕事が忙しいらしく、会えない日が続いた。でもここで「私と仕事のどっちが大事なのよ!」などとは口が裂けても言わない。私はそこらへんの小娘とは違う。一国一城の主の妻になるのだ。もう覚悟は出来ていた。  秀吉が仕事で頑張っているのなら私も頑張ろう。そう思い料理教室に通い始めた。 「ごめん……」  久しぶりに会った秀吉は深刻な顔をしていた。 「謝る事なんて何もないよ。仕事忙しいなんていい事じゃないの。私は頑張る秀吉が好きだし尊敬してる。ねえ今日は一段と素敵なホテルね。どうしたの? もしかして昇進したの?」  大きな窓から見える夜景はまるで宝石箱。地元ではちょっと豪華なホテルの最上階。会えなかった事の謝罪にしては奮発しすぎに思えた。 「まだだけど、内示はもらったんだ。でもどうしようか悩んでる」 「悩む事なんかないじゃない。秀吉ならやれるわよ。誰よりも頑張ってきたんだもん」 「……今までは歩いて険しい山を登っていた」 「本当ね。砂利道を裸足で歩いて素手で崖をよじ登って、藪をかき分け濁流を渡って」 「うん。そんな感じかもしれない」 「でもその頑張りを見ててくれた人はいたのよ。やったわね、秀吉」 「なんか……崖を登りきったらそこに頂上まで続くエスカレーターが現れた感じなんだ」 「それはラッキー!……え、どういう状態?」 「社長の娘に気に入られて……お嬢さんは一人娘で……婿にならないかって」
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