第一章:蛇喰の村

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 体の奥が熱い。血が逆流しているような感じだ。山の中腹辺りから感じた違和感が山頂に近づくにつれ大きくなる。これが結界とやらの力か? とカリンは思った。もちろんカリン自身は妖怪としての力は抑えているつもりだ。しかし、カリンの中で全ての部分がコントロールできているわけではないとカリン自身も気づかされた。  それはカリンにとって紛れもなく自分は100%人間でなければ、妖怪でもないという事実を突きつけられたようだった。胸の奥からこみ上げるイライラがどちらの種にも属しえない自分の寂しさからくることにカリンは気づいていなかった。  ……あれだな。カリンの視界に古ぼけた神社が薄闇の中に映る。蛇喰兄弟から目指すべき宝珠は神社にあると聞いていたが、そんなことを思い出すまでもなく体に感じる違和感で十分にそこが結界の中心だということがわかった。  さて、はたして結界を直で通過できるかどうか?もちろんやってみなくてはわからない。違和感を感じながらもここまではこられたのだ。カリンは考えるのをやめてまっすぐ神社めがけて歩みを進める。 「⁉」  神社を目前にしたカリンの足がそこで止まる。さっきまで感じていた違和感が急に消えた。体が軽くなる。……結界が消えた? 予想もしなかった事態にカリンは驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、とりあえず神社に駆け寄る。夜の闇はすっかり更けて、月の淡い光だけがぼんやりと足元の草木を照らしている。少し風も出てきた。  境内の前までカリンがたどり着いたとき、境内の古い木戸が開く。ぎしぎしときしむ古い木戸をできるかぎり音を立てないようにとそっと動かし、忍び足で出てきたのは派手な着物を身にまとった女性であった。怪しげな荷物籠を背負い、大事そうに淡い水色に透きとおる珠を両手で抱えている。ツクネだ。  この時間にまさか人がいることを想定していなかったツクネは境内の前の人影に気づくと「おおっと⁉」と思わず声を出した。想定外はカリンも同じだ。できれば誰にも見られず宝珠だけを手にしたかった。目の前のツクネに対して明らかに警戒をみせる。それとは逆にツクネは境内の前のカリンの姿を確認すると安心したようにカリンに声をかけてきた。もちろん、とっさに手を後ろに回し、宝珠は隠している。 「……なんや、お嬢ちゃんか。もう、びっくりさせて!」  ツクネは胸をなでおろして、境内に腰をかける。 「こんな夜更けになんや? 子どもはもう寝る時間やで!」 「……」  ツクネの性格だろうか? 初対面のカリンになれなれしく言葉をかける。夜更けに少女が一人神社に現れたことを不審にまでは思わないようだ。 「それ……」  カリンがツクネの籠を指差す。 「さっき隠した珠をくれ」  手を差し出すカリン。ツクネはペロッと舌を出してばつが悪そうに答えた。 「……何や、見てたんか」  ツクネは籠を下ろして、そのまま境内に腰掛ける。手には先ほどの宝珠を手にしている。
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