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ツクネとカリンの視界の先にはひときわ目立つ大きな体をした蛇妖と、その背後に控える刀を持った妖怪たちが飛び込んできた。ひぃ、ふぅ、みぃ・・・妖怪たちの数を目で数えながら、これはちょっときついなぁと思う。
「その珠を渡してもらおうか」
先割れした長い舌を出しながら、中央の蛇妖が一歩前に進む。蛇喰兄弟の弟だ。少しずつツクネをとりかこむ妖怪の輪が狭まってくる。ツクネの背中にひんやりと冷たい汗が流れた。やがて覚悟を決めたツクネが叫ぶ。
「嬢ちゃん、はよ逃げ!」
後ろのカリンに向かって叫ぶと、南京玉簾を大きく振りかぶり、片手で釣竿のように蛇妖目指して伸ばす。そのときだった。
「⁉」
背後からの不意打ちにツクネは何が起こったかわからなかった。薄れゆく意識の中でツクネが見たのは悲しそうな顔をしたカリンと「……ごめん」という言葉だった。
「……嬢ちゃん?」
そのまま前のめりに崩れ去るツクネ。そのツクネの袖口からカリンはそっと宝珠を抜き出す。去り際にカリンは何かをつぶやいたが、近くにいた妖怪たちにも聞き取れなかった。蛇妖が聞き返したが、カリンは「……いくぞ」と言って、足早にその場から立ち去る。
この女は始末しとくか? ……と蛇妖は思ったが、カリンが早々とその場から立ち去ってしまったので急いでそちらを追いかけることにした。カリンはどうでもいいとしても、宝珠を見失っては兄貴にどやされる。
カリンと妖怪たちが去った後の神社には元の静けさが戻った。さきほどまで出ていた風も止まり、夜の闇もまた一段と深くなった。
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