第二章:鬼の哭く街

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「何してるんや! はよ逃げ‼」  ツクネが叫ぶと男は慌ててその場から離れる。 「さあ、邪魔者はいなくなったで、あんたが例の辻斬りやろ? うちが相手になったるわ!」 「私が斬るのは悪事を働いた者だけだ。そなたと闘うつもりはない」  鬼面の男は鍔迫り合いから一歩後退して距離をとった。 「うちはそういう似非正義面したやつが一番嫌いや!」  ツクネは懐からクナイを三本出して投げつける。空気を切り裂くように加速して、鬼面の男にクナイが向かうが、男は難なくそのうちの一本を刀で払い、残り二本を躱した。間髪入れずにツクネは鋼鉄の南京玉すだれを振り下ろす。  鬼面の男はそれも体さばきで躱した。振り下ろした玉すだれが地面を削り、砂埃を巻き上げる。ツクネが手元で操作すると、地面にぶつかった玉すだれが跳ねるように進行方向を変え、男を追撃する。 「……っ‼」  予想外の動きに鬼面の男の反応が一歩遅れる。何とか体をひねって致命傷は避けたが、肩口あたりに玉すだれが直撃した。 「よっしゃああ! あたり!」  鬼面の男は刀を杖のようにして片膝をつき、右肩を押さえている。鋼鉄製の玉すだれだ、少し体をひねったとはいえ、骨ぐらいは折れているかもしれない。 「……もうやめときや。それなりの手ごたえはあった。おとなしくお縄につき」 「……」  男が右肩を押さえながら細かく震えだす。 「……やめろ」 「あ? 何て?」 「……逃げろ! 早くここから!」  鬼面の男が叫ぶ。その鬼気迫る様子に、ツクネは圧倒された。 「どういうことや?」 「俺は悪人以外、斬らないと言っているだろ‼」  ツクネの質問にはお構いなしに男は独り言のように叫ぶ。 『血が……血が欲しい! さっさと体を渡すんだ』  低くくぐもった声がどこからか聞こえる。ツクネはあたりを見回すが二人の他には誰もいない。 だが、次の瞬間、ツクネは声の主に気づく。……刀だ。鬼面の男のその漆黒の刀から声が聞こえてきた。 「……やめろ! やめてくれ」  男が繰り返し叫ぶ。
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