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「何してるんや! はよ逃げ‼」
ツクネが叫ぶと男は慌ててその場から離れる。
「さあ、邪魔者はいなくなったで、あんたが例の辻斬りやろ? うちが相手になったるわ!」
「私が斬るのは悪事を働いた者だけだ。そなたと闘うつもりはない」
鬼面の男は鍔迫り合いから一歩後退して距離をとった。
「うちはそういう似非正義面したやつが一番嫌いや!」
ツクネは懐からクナイを三本出して投げつける。空気を切り裂くように加速して、鬼面の男にクナイが向かうが、男は難なくそのうちの一本を刀で払い、残り二本を躱した。間髪入れずにツクネは鋼鉄の南京玉すだれを振り下ろす。
鬼面の男はそれも体さばきで躱した。振り下ろした玉すだれが地面を削り、砂埃を巻き上げる。ツクネが手元で操作すると、地面にぶつかった玉すだれが跳ねるように進行方向を変え、男を追撃する。
「……っ‼」
予想外の動きに鬼面の男の反応が一歩遅れる。何とか体をひねって致命傷は避けたが、肩口あたりに玉すだれが直撃した。
「よっしゃああ! あたり!」
鬼面の男は刀を杖のようにして片膝をつき、右肩を押さえている。鋼鉄製の玉すだれだ、少し体をひねったとはいえ、骨ぐらいは折れているかもしれない。
「……もうやめときや。それなりの手ごたえはあった。おとなしくお縄につき」
「……」
男が右肩を押さえながら細かく震えだす。
「……やめろ」
「あ? 何て?」
「……逃げろ! 早くここから!」
鬼面の男が叫ぶ。その鬼気迫る様子に、ツクネは圧倒された。
「どういうことや?」
「俺は悪人以外、斬らないと言っているだろ‼」
ツクネの質問にはお構いなしに男は独り言のように叫ぶ。
『血が……血が欲しい! さっさと体を渡すんだ』
低くくぐもった声がどこからか聞こえる。ツクネはあたりを見回すが二人の他には誰もいない。
だが、次の瞬間、ツクネは声の主に気づく。……刀だ。鬼面の男のその漆黒の刀から声が聞こえてきた。
「……やめろ! やめてくれ」
男が繰り返し叫ぶ。
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