第二章:鬼の哭く街

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「あほか! 嬢ちゃん! 街を灰にする気か!」  ツクネが叫んで、懐から消火剤の詰まったけむり球をそこへ投げようとした。その瞬間にはカリンもすでに大きく跳躍していた。炎を避けるよう体を滑らしてきた男の真上からカリンは鬼の手をフルスイングする。  鬼面の男はとっさに妖怪化した右腕の前腕部分でカリンの鬼の手を受け止めようとする。しかし、さすがに態勢が悪く地面に思いきり叩きつけられてしまう。カリンはそのまま返す刀で鋭い爪を触手のようになっている部分に食い込ませ、引き裂いてしまった。  一撃でという訳にはいかないだろうがかなりの手ごたえがあった。カリンは一歩後退して相手の出方を待つ。ツクネもカリンの出した炎の後始末を行いながら横目で様子をうかがう。男の周辺にはカリンが引き裂いた触手が散らばっている。まだ生きているのか、もぞもぞと動いていたがそれもやがて活動が止まる。  カリンの攻撃でうつぶせに倒れていた男だったが、しばらくすると刀を杖のように使い起き上がった。触手が千切れたせいか右腕の妖怪化は解けている。 「なかなか手こずったけど、うちと嬢ちゃんにかかればざっとこんなもんや」  ツクネが男に向かって言った。 「お前はほとんど何もしていない」というカリンのつっこみには「まあまあ」と流しながら、ツクネが続けて話を続ける。 「別に命まで取るつもりはないけど、こんだけの大騒動や! せめてどんな面してるのかぐらいは拝ませてもらうで」 「……私はまだ」 「ああ? なんや?」  ツクネが聞き返すのと、男が「捕まるわけにはいかない」と言うのとほぼ同時に、突如雷鳴のような音が鳴り響き、ツクネとカリンの周囲の塀が崩壊した。崩壊したがれきの一部がツクネのもとに降り注ごうとするのをカリンが鬼の手で払いのける。 「サンキュー! 嬢ちゃん」 「‼ まだだ!」  さらに雷鳴が鳴り響き、稲妻のようなものが地面を走る。その衝撃で地面はえぐり取られ、その光が壁にぶつかったと思うと一瞬で粉々に砕け飛ぶ。何者かの攻撃のようだが、ツクネやカリンを攻撃するというよりかは足止めが目的のようだ。  その混乱に乗じて鬼面の男はその場か逃げ去ってしまう。「あいつ!」とツクネは男を追いかけようとするが、そこへ三度、稲妻が走る。 「あいつだ!」  周囲の様子をうかがっていたカリンが、鬼面の男が逃げていった方向とは逆の塀を指さす。そこにはいつからいたのか亜麻色の髪色の青年がいる。すっと軽やかにその青年は塀の上から地面に降り立つと拍手をしながらカリンの方に寄ってくる。 「いやぁ、お見事です。『紅喰』に憑りつかれた人間をああも見事に撃退するとは」 「なんや、あんた?」  ツクネが突然現れた男に詰め寄ろうとするのをカリンは袖口を引っ張って制止する。 「……やめとけ」 「えっ?」 「……あいつ……やばい」  カリンの顔に焦りの様子が浮かぶ。ツクネもこんなカリンを見たことはない。
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