第二章:鬼の哭く街

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「すみません、自己紹介がまだでしたね。私はコハクと言います。申し訳ありませんが、あの男にはもう少し働いてもらわないといけませんので……」  丁寧な口調で話しかけてくるが、ツクネとカリンは警戒を解かない。カリンは右手を妖怪化させてすでに臨戦態勢をとっている。その様子を見てコハクは「いやいや」と手を振って話を続ける。 「ここであなた達と闘うつもりはないのでご安心を……私はこのまま退かせてもらいますよ」 そう言ってその場から立ち去ろうとするコハクの背中にカリンが問いかける。 「お前……いったい何者だ?」  その問いかけにコハクは振り向きもせず答えた。 「……そのうちわかりますよ。玄鬼さんの娘、『鬼の子』カリンさん」 「⁉……お前!! あいつの……」  驚いたカリンがコハクを追いかけようとすると、カリンの目の前に大きな稲妻が落ちてくる。轟音と共に地面に大きな穴が開き、周囲に砂ぼこりが舞い上がる。カリンがそれらをふり払った時にはすでにコハクはその場にはいない。 「なんやったんや? あいつ」  静寂を取り戻したあたりを見渡しながらツクネが言った。 「……」 「……嬢ちゃん?」  珍しく何かを考え込んでいるカリンにツクネが問いかける。カリンは少し遅れて、「何でもない」と言葉を返す。ツクネは、それ以上はカリンを問い詰めることをしなかった。  先程の戦いのせいであちこちの塀や道路が壊れている。深夜とは言え、巻き込まれる人がいなかったのが不幸中の幸いだ。しかし、いつ人が集まってきてもおかしくないので、ツクネはカリンに「嬢ちゃん、歩きながら話そ」と言った。ツクネが歩き出すと、カリンは渋々ながらも後をついてくる。 「それにしてもあの哭き鬼の面の男……もうちょいやったのにな! それにあの刀、『紅喰』とかいうてったっけ?」 「あの刀自体が妖怪だ……人間に寄生する種類のな」 「寄生?」  カリンの言葉にツクネが聞き返す。 「ああ、人間に寄生して最終的には意識ごと体を乗っ取るやつがほとんどだ……あいつも途中で右腕が侵食されていた」 「それで途中から急につよなったんやな。逆に言うとそれまでは妖怪やのうて、ただの人間やったちゅうわけか」  妖刀の力もあって多少は手ごわい相手だったが、途中まではツクネでも十分相手にできるぐらいの力だった。それが途中の右腕まで刀の一部になってからはあきらかに強力になった。 「……それよりあの人間は何者だ?」 「どういう意味や?」 「あいつの太刀筋……あのユキジとかいう女剣士に似ていた。心当たりはないか?」 「⁉」  カリンの言葉にツクネは驚く。そして、しばらく考えた後こう続けた。 「……やっぱりか。薄々そうじゃないかとは思っていたんや」 「心当たりがあるんだな」 「まあな……確証はないけど、たぶん合ってると思う。でも、これはユキちゃんには任せられんなぁ」  ツクネは困った表情を浮かべる。 「あいつの右腕……」 「えっ?」 「アタシの爪の傷跡があるはず。それを確認すればわかる」 「なるほどな……よっしゃ、うちが確認してあの鬼をおびき寄せるわ」  ツクネは手のひらをポンっと叩くと、カリンの方に肩をまわす。 「なあ、嬢ちゃん。うちと組まへん? 明日の夜。鬼退治としゃれこもうや!」
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